旭山動物園の魅力
日本の最北端の動物園、旭山動物園は人口わずか30万人の旭川市が運営する市立の動物園です。オラウータンの空中散歩、ペンギンの水中トンネル、シロクマを見上げるビューなど次から次へと今までにない新しい展示手法を繰り出してくる旭山動物園を実際に見て確認したいという思いに負け、先日北海道に行ってきました。
1)ユニークな展示施設が動物園の楽しみ方を変えた
2004年にオープンしたあざらし館内部の写真です。 直径2メートル程度の円柱の水槽の中を、アザラシが次から次へと通過していきます。これはアザラシの好奇心の強さを逆手に取った全く新しいタイプの展示施設です。水槽の中をアザラシが通過するたびに おおー! っという歓声が巻き起こります。アザラシは好奇心から中に居る人を見に来る、人はそのアザラシを見て楽しい。動物にとっても人にとっても楽しい飼育展示施設です。
このアザラシ館のオープンにより、来園者数が急上昇し今年7月の来園者数は18万5千人、東京の上野動物園を抑え堂々の日本一に輝いたことでマスコミにも大々的に取り上げられていますので、ご存じの方も多いと思います。
2)来園者への気遣いにあふれる動物園
行って先ず思ったのは、来園者への心配りが行き届いた動物園だなあ、という印象です。
勾配が非常にきつい立地にもかかわらず、飼育施設を辿れば、エレベーターの利用により歩行が困難な人でも苦にならない仕掛けになっています。
屋根付きの休憩施設も数は十分ありますし、いたるところにベンチが配置されています。ベンチの多くは動物や植物をあしらった手作り感いっぱいのユニークなもの。この手作りベンチや手書きのサインを見て歩くだけで気分が楽しくなってきます。
また観察していると来園者の方々も、手書きのサインを読む率が他の動物園に比べて圧倒的に多いような気がしました。来園者の興味を引くような内容を常に試行しながら考えているからなのでしょうか。
案内に立っている方に聞いてみたところ、これらのサイン・ベンチ・看板は飼育展示係の方が作成されているとのこと。動物園では飼育係とは呼ばれても飼育展示と並列に表記された役職名は極めて珍しいですね。この辺に旭山の面白さの秘密があるような気がします。
マスコミの報道によれば、来園者数の落ち込みに対する動物園の人々の危機感からこういった施設づくりが推進されてきたということですが、だからといってこういった細部にわたった心遣いは簡単に出来ることではないと思います。
3)「命の尊さを伝える」展示
新しい施設のユニークさにばかり目がいってしまいますけれど、このユニークな発想はどこから出てきたのでしょうか。
アザラシ館の展示のユニークさは冒頭でも述べた通りですが、いったいどこからこんな発想が出てくるのでしょう。アザラシが好奇心が強いというのは動物に詳しい人なら誰でも知っていることですよね。でもそれだけじゃあんな施設展示の発想は出てきません。動物の習性を知り、日常の動物観察を行ってきた人じゃない限り思いつくはずは無いと思います。
これらの新しい展示の発想は、改修が行われていない施設を見てある程度納得することができました。
例えばヤマアラシの飼育舎にはヤマアラシ用のトンネルが掘ってあります。トンネルの終点は観客の金網になってます。トンネルの入り口は一頭のヤマアラシがようやく通れる程度のもの。中にはヤマアラシが2頭入ってました。
他にもチンパンジーとホロホロチョウの同居、マルミミゾウとモモイロペリカンの同居などの複合展示の試み、サル舎の動物の動きを引き出す仕掛けの数々。新しい施設づくりの発想がユニークなんじゃなくて、常に動物福祉の立場に立った飼育や、野生動物らしい動きを来園者に見てもらいたい、という試行錯誤の結果が新しい施設を作る時に花開いているんでしょうね。
これからも我々をあっと言わせるような施設が出てくると思います。そんな可能性を感じました。
4)これからの動物園展示
旭山動物園の成功により、来園者ばかりだけでなく、日本の動物園の関係者も相次いで旭山巡りを行っているという話を聞きました。新聞では香港など海外の動物園からも施設の視察に来ているということでした。
旭山動物園の成功は単にユニークなハード整備が良好な結果を招いたのではなく、それを支えるソフトの充実を園内のボトムアップによって導いた結果だと感じました。今後旭山のうわべだけを真似た展示飼育施設が増えてくるのは確実な話だと思いますが、コンセプトが明確でない飼育施設が失敗した事例は、生態的展示の手法を用いた(という)あちこちの施設で確認済みです。もうそういう失敗も見たくないなあという思いと、成功した施設の物まねでなく、オリジナリティを追求して欲しいという思いが私にはあります。
5)ちょっぴり苦言などを
展示サインやユニークな展示に比べて、動物園のショップなどで売られているみやげ物にはとても残念な気がしました。
せっかくあそこまで展示が出来ているのに、何故動物の知識を高めていくような書籍とかグッズが置かれていないのか。感動を持って帰るのは良いが、動物に興味を抱いた子供たちがさらに動物のことを知ろうとする回路をつなげ、昇華していくようなきっかけ作り、次のステップに対する手立てが希薄な気がしました。せっかくあそこまでできてるんだから、もう一押し!してほしい。
いえ、市民ZOOネットワークのいま動物園がおもしろいを売っている動物園は他には無いと思いますけど。これだけは例外。旭山動物園の飼育係だった絵本作家のあべ弘志さんの絵本なんかはいいお土産になると思うんですけどねえ。置いてあったら私絶対買ってます。
どこの動物園でも予算は極端に制限され、今後新しい動物園施設などなかなか出来上がらない中で、日本の最北端で頑張る動物園の活躍に今後も期待したいと思います。(犬楠)
このページは2004年10月訪問時のものです
旭山動物園写真ツアーもご覧ください
|